ホンノレビュー

ちょっとしたレビューです。1980年生まれ。

人を呪わば穴二つ:『氷点』『続氷点』

 

氷点(上) (角川文庫)

氷点(上) (角川文庫)

 

 

氷点(下) (角川文庫)

氷点(下) (角川文庫)

 

著者の小説を読むのは、「塩狩峠」以来でした。「塩狩峠」同様、本書も名作でした。内容は壮大な復讐劇で、テーマは原罪のようです。読んでいて感じたのは、人間の虚栄心や嫉妬心の強さ、因果関係を特定することの難しさ、そして思い込みの怖さでした。端的に言えば、「人生は複雑」ということでした。

本書の復讐心は壮絶で、身の毛もよだつようなものでした。その復讐劇を手がける本人は、「汝の敵を愛せよ」という崇高なテーマを持ち出し自己の行為を正当化していました。大した悪党なのですが、同時に良心の呵責にも苦しんでいました。「人を呪わば穴二つ」という諺のお手本のような事例でした。

復讐された人が復讐の事実を知った後、別の復讐劇が始まりました。まるで敵を作らなければいけないというルールがあるかのようです。その復讐劇の中では、関わる全ての人が苦しんでいました。

先が気になる劇的な展開が続くのですが、最後はなんという結末、というものでした。「それからどうなるの?」と言う終わり方なのですが、ありがたいことに続編もあるとのことでした。そちらも早速読みました。続編のテーマは「許し」です。ご存知かもしれませんが、著者はクリスチャンです。(現在形ですが、著者はすでに亡くなっています)

 

 

 

この小説は、ストーリがー出来過ぎている感があり、そんな偶然が続くのかと思ってしまうのですが、これは仕方のないことでしょう。続編においても、嘘でしょうという展開が続きます。それでも読むに値する小説だと思います。

随所に挟まれる登場人物の言葉に含蓄があり、スリリングな内容に花を添えています。

「徹くん。十円落としたら、本当に十円なくしたのだから損したわけよ。その上、損した損したと思ったら、なお損じゃない」

「人生の一大事である結婚に、不まじめな人間は、その人生に不まじめな人間である」

「自分一人ぐらいと思ってはいけない。その一人ぐらいと思っている自分に、たくさんの人がかかわっている。ある一人がでたらめに生きると、その人間の一生に出会うすべての人が不快になったり、迷惑をこうむったりするのだ。そして不幸にもなるのだ」

「そうだそうだ。みんなが、年中老人や母親を大事にしていれば、とりたてて老人の日も母の日もいらんわけだからなあ。その証拠に父の日ってのはないぜ」

「・・・・・・自分は正しいと思いたい思い、人間にとってこれほど根強い思いはないと思います」

生きていると許せない人や理不尽な出来事に出会うことがあります。そうした許しがたい出来事に遭遇した時に、本書はとても参考になるような気がします。誤ちは避けることが出来ないのだから、それを許す寛容さが大切だと思いました。本書の登場人物も言うように、復讐することで一番復讐されるのは自分自身なのですから。