読書記録

本の感想や書評、粗筋、引用などの読書記録。1980年生まれ。

『超越の棋士 羽生善治との対話』

 

超越の棋士 羽生善治との対話

超越の棋士 羽生善治との対話

 

本書は羽生善治へのインタビュー集である。その期間は7年にも渡り、永世7冠になったことや藤井聡太への思いも語られている。インタビュー中の羽生はよく「ハハッ、ハハッ」と笑ってみせるものの、その掴み所のなさにインタビュアーである著者を何度も当惑させていた。

他の棋士へのインタビューも掲載され、それぞれが羽生への思いを語っている。渡辺明久保利明島朗、谷川浩二、森内俊之である。彼らと羽生はライバル関係でもあるのだが、それぞれが羽生への感謝の思いを持っていた。森内に至っては、謙遜しすぎだろうというくらいに謙っていたけれど、そこが彼の良いところなのだと思う。

渡辺明は本インタビューにおいても率直であった。自分より前の中学生棋士の3人があまりにも偉大だったので、流してやっても自分もそこそこの棋士にはなるのだろうと楽観していたことを告白していた(笑)。なんて正直な人なんでしょう。

伝説の研究会「島研」の主催者の島朗のインタビューも良かった。島研が始まったのは、島が佐藤康光森内俊之の二人の実力を買って、島から申し込んだというのだ。その当時二人はまだ奨励会員である。立場の低い二人にお願いをしたというのだから、島の懐の深さと先見性には恐れ入る。また、二人の人間性の素晴らしさも誘った理由だったという。その後に、二人が目標にしていたという羽生を誘うことで研究会は4人になった。彼らは今でも人格者であるが、どうして10代の頃からそうした性格でいることができたのかが知りたいところだ。

また、棋士ではないのだが、桜井章一のインタビューもあった。そこでは羽生の凄まじい努力を垣間見ることができた。羽生が普段の研究会で使っていた卓上型の将棋盤を桜井にプレゼントしたところ、その盤は3筋の升目の線が消え、木目が分からないほど黒く変色していたという。羽生の天才的な努力を雄弁に物語るエピソードである。

羽生自身のソフトに対する見解が鋭い。ソフトは時系列で物事を考えないという。そのため、手損という概念がないのである。羨ましい話である。自分の過去を切り離して今現在だけに集中できたらどんなに素晴らしいことかと思う。人間が機械から学ぶべき点はそこにある気がした。