読書記録

本の感想や書評、粗筋、引用などの読書記録。1980年生まれ。

せつなすぎた:『将棋の子』

 

将棋の子 (講談社文庫)

将棋の子 (講談社文庫)

 

本書を読むのは2度目だ。初めて読み終えた後も、このブログに書いたけれど、もう一度書く。素晴らしい本とは理解していたけれど、改めて読み返してみると、想像を絶するほどの素晴らしさであった。本書は大宅壮一ノンフィクション賞の受賞作かと思っていたけど、実際には講談社ノンフィクション受賞作であった。

本書は将棋連盟に勤めていた著者の大崎善生が、プロ棋士にはなることが出来なかった元奨励会員のその後を追った物語である。奨励会はプロの将棋指しを目指す若者の養成機関である。華々しくデビューをする藤井聡太のような棋士がいる一方で、決して報道をされることもなく将棋界を去って行く若者が大勢いる。それを間近で見た著者はそれを伝える責任が自分にはあると思い本書を執筆した。

どうしても彼らのことを書かなければならない。歩道の上に散り、いつの間にか跡形もなく消えてしまった一枚一枚の花びらたちのことを。

幾人もの元奨励会員が出てくるが、物語の中心となるのが著者と同郷でかつては同じ将棋道場にいた成田誠二である。二人が初めて接触するシーンから、その後の将棋会館での再開のシーン。さらに時を経て、北海道に戻った成田に会うために著者が成田に会いに行く様子が回想され、その間の成田の様子、挫折して逝った奨励会員の様子、その他の棋界の様子が間に挟まれる。

成田の母が病気になり、その後亡くなるまでの描写はあまりにも切なく読み進めるのが苦しい。自分がプロ棋士になるために北海道から上京してくれサポートしてくれた母。それなのに結果が出ずについには奨励会を辞めてしまう成田。当初は病気の母にその事実を隠し、奨励会の結果さえも偽っていた。

「今日は」と聞くサダ子に成田はいつも「1勝1敗」と嘘をついていた。2勝と言って喜ばすことも、2敗と言って落胆させることも成田にはできないことだった

その後に奨励会を辞めたことを伝えるシーンと、それでも変わらぬ成田を愛する母のサダ子。下記はいくつかの引用。

「そうだったの。お母さんはいいのよ、そんなこと全然平気。それで英二が英二で無くなるわけじゃないんだから」 

「つべこべ言わないで洗濯物を持ってきなさい。どんなに苦しくても生きている間は私が洗うんだから」

 

「もう、死ぬだけなのにねえ」

「お母さん、英二のお嫁さん見て見たかったなあ」

奨励会を辞めた後の成田は故郷の北海道に戻り職を転々とする。成田は恋をするも、そこでも運命は成田に残酷なのだ。職を失い、借金を作り、恋人とも離れ離れになってしまう。そんな折に著者は成田に会いにいく。そこで明かされる意外な事実。将棋から久しく離れていた成田は今でも「将棋の子」であったのだ。

「将棋がね、今でも自分に自信を与えてくれているんだ。こっち、もう15年も将棋指していないけど、でもそれを子供の頃から夢中になってやって、大人にもほとんど負けなくて、それがね、そのことがね、自分に自信をくれているんだ。こっちお金もないし、仕事もないし、家族もいないし、今はなんにもないけれど、でも将棋強かった。それはね、きっと誰にも簡単には負けないくらいに強かった。そうでしょう?」

以下は最初に読んだ時の感想。

bookimpressions.hatenablog.com