読書記録

本の感想や書評、粗筋、引用などの読書記録。1980年生まれ。

『ある奴隷少女に起こった出来事』

 

ある奴隷少女に起こった出来事 (新潮文庫)

ある奴隷少女に起こった出来事 (新潮文庫)

 

奴隷制というものがかつて存在し、奴隷も実在した。歴史の教科書で習った通りである。しかし、現実の奴隷がどのような気持ちで生活をし、どのような生活をしていたのかまでは教わらなかった。

本書はそのかつての奴隷、ハリエット・アン・ジェイコブズ(本書ではリンダという名で登場する)の視線からそのいたましい奴隷の生活を描いたものだ。

奴隷でありながら二人の子どもを生んだリンダは北部へと逃亡を図る。しかし、北部への逃亡の機会を伺ううちに7年もの時が経過してしまう。その間リンダが住んでいたのは祖母の家の屋根裏部屋である。かつての所有者であるドクターフリントは近くに住んでいたにもかかわらず。誰かに通報される可能性もあった。見つかれば自分を匿ってくれた人にまで危害が及ぶ。当然、子どもらにも。どれほどの悩みを抱えての生活であっただろうか。

息を殺し、僅かな穴から下に住む子ども達を覗き見る生活。消えてしまった奴隷のリンダを諦めない所有者のドクターフリントの執念にゾッとする。見つかっていれば本書は存在しなかったであろう。

奴隷の売り買いが当然の時代の話である。奴隷の親の元に生まれてしまえば、その子もまた奴隷となる。所有者の子として生まれれば、所有者となる。とても野蛮な時代だけれど、自分がもしその時代に生きていたら、その当たり前に抵抗することができたであろうか。

本書が書かれたのは150年以上も前であり、当初は小説だと見なされていた。それは内容があまりにもセンセーショナルで、とても信じられるような内容ではなかったからである。また奴隷がこれほど卓越した文章を書くことができるとは誰も思わなかったこともその原因である。見たくないものは、見えないのである。

時代の経過とともに本書は忘れさられ、ようやく1987年にある歴史学者によって本書が事実に忠実な自伝であることが証明された。そして今ではベストセラーランキングに名をつらねるほど売れているという。