ホンノレビュー

ちょっとしたレビューです。1980年生まれ。

『師弟 棋士たち魂の伝承』

 

師弟 棋士たち魂の伝承

師弟 棋士たち魂の伝承

 

 

本書は将棋界の師弟関係を描いたもの。プロの将棋棋士になるには師匠を持たなければならない。だからどの棋士にも師匠がいて、年齢を重ねれば、逆に師匠という立場にもなる。あの谷川も今や弟子を抱えている。その谷川は弟子の都成と共に本書の第1章で登場する。どうして弟子をとったのかや弟子とのエピソードが語られる。

師匠と弟子がワンペアとなり1つの章を構成し、6章までに12人の師匠と弟子が登場する。最後の7章は、羽生竜王へのインタビューである。

一番面白かったのは、2章の森下・増田ペアである。巻頭には部屋で立ってパソコンに向かい将棋の研究をする増田のシュールな写真がある。師匠の森下は礼儀の正しさで有名であるけれど、弟子の増田はやんちゃを売りにしている。弟子の増田が「矢倉は終わった」と発言した際には、周りの将棋関係者に森下が謝って回ったとか。

この増田には兼ねてから注目していたけれど、本書でも面白い。こんなにも率直な思いを伝えることができるなんて、若いって素晴らしいと思う。

増田は、今一番強い棋士藤井聡太だと言い切る。一番若い棋士を一番だと認める潔さが清々しい。ちなみに藤井聡太に次いで若い棋士はこの増田である。師匠の森下が女性関係の悩みが原因で名人戦で負けたことに対しては、「あり得ないこと」だと呆れている。師匠にも容赦がないのである。

しかし、その森下は増田に多大な期待を寄せていて、表紙の「君は、羽生善治を超えるんだよ」との言葉は、この森下のものであった。

その師匠の思いを知った時の増田の心の機微を伝え、美しくこの章は終わる。

他の章も面白い。石田和雄の弟子への愛情の深さは脱帽ものだし、弟子達にアドバイスをしない理由は哲学的である。深浦の将棋への執念もすさまじいし、藤井聡太の凄さも再認識できる。森下は7章の羽生のインタビューでも登場するが、ここでもまた、笑わせてくれるのだ。