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本読みのはしくれ

本の感想や書評、本の案内ブログです。このブログは1980年生まれの男によって書かれています(受動態)。

『嫌われる勇気』

人文・思想の本

 

嫌われる勇気―――自己啓発の源流「アドラー」の教え

嫌われる勇気―――自己啓発の源流「アドラー」の教え

 

哲人との青年との会話からアドラー心理学を解き明かす本書。話題になった本で、僕も昨年の12月に一度読んだのだけれど、もう一度読んでみた。有名なフロイトの心理学とは別のアプローチであるアドラー心理学だが、心理学の世界では有名だという。そして、その教えは魅力的。その魅力的なものが、本書では分かりやすい対話形式になっている。「いやあ、哲学って本当に素晴らしいですね」と言いたくなるほどだ。

アドラー心理学は人間の悩みはすべて対人関係によってもたらされるという。その悩みは、他者の課題に自分が関わってしまうこと、あるいは逆に、自分の課題に他者が関わってくることで生じる。 そしてその悩みを解決するためには、課題の分離が必要になる。他人が自分のことをどのように思うのかは他人の問題であって、自分の問題ではないという。だから、自分の好きなように生きればいいのだと。もしそれが出来ないのであれば、それは他人の期待に応えるために生きていることになり嘘の人生になるという。自分の好きなように生きた結果、嫌われることもあるのだが、それは仕方のないことなのである。それ故に、こういう。 

自由とは、他者から嫌われることである」と。

積極的に嫌われろと言っているのではない。自分の思うままに生きようとすると、結果として人に嫌われることもあるけれど、それは仕方のないことだというのだ。他者がどう思うかは他者の問題なのだから、自分の思ううがままに生きればいいのだ。嫌われることを恐れることなく前進していく。それこそが人間にとっての自由なのだという。他者の思いよりも自分がどうあるかを優先させるアプローチだ。もう一つ引用。

他者の評価を気にかけず、他者から嫌われることを恐れず、承認されないかもしれないというコストを支払わないかぎり、自分の生き方を貫くことはできない。つまり、自由になれないのです。

フロイト哲学の基本が原因論であるのに対し、アドラー哲学の基本は目的論である。本書の例で言えば、上司のせいで仕事が出来ないと考えるのが原因論で、できない自分を認めたくないから嫌な上司を作り出すのが目的論である。目的論の立場から理不尽な上司に対応するために必要なのも課題の分離である。上司の傍若無人な振る舞いは上司の課題として、つまり他者の課題と捉えることが出来れば、無駄に上司に媚を売ったり、気をつかう必要はなくなるというのである。

相手が自分よりも力があることを自慢してきたり、自分の意見が正しいと主張してきたらどうすればいいか。そうした場合には、リアクションを起こさないことが大事だという。相手は、あなたより優れていることを誇示するのが目的であって、仮にその戦いに勝ったとしても結局は恨みを買われたり、復讐の対象となるだけである。

また自分が正しいと確信することも相手との争いに足を踏み入れることになる。アドラーはこのような態度を否定する。

あなたが正しいと思うのなら、他の人がどんな意見であれ、そこで完結するべき話です。

 他人がどのように考えることは他人の課題であって、それに足を踏み入れることをアドラーは否定する。この課題の分離は本書で何度も繰り返され、本書の前半のメイントピックでもある。しかし、課題の分離は、対人関係における最終目標ではなく入り口に過ぎない。それでは対人関係のゴールはどこにあるのかというと、「共同体感覚」にあるという。

他者を仲間だと見なし、そこに「自分の居場所がある」と感じられることを、共同体感覚といいます。

 そしてアドラー心理学ではあらゆる縦の関係を否定し、すべての人間関係を横の関係で捉えようとする。人間は皆同じではないけれど、価値においては対等という考え方である。その帰結、相手を評価することも否定する。評価と言うのは、上の人から下の人へ行う縦の関係だからである。そして評価は相手を自分より低くみることで他人の課題に介入してしまうのである。

その代わりに提唱されるのが、「勇気づけ」とうアプローチである。これは横の関係に基づくものである。具体的には感謝の言葉がそれである。感謝の言葉を聞いた時、自分が誰かに貢献していると感じるのである。この貢献するということが、共同体感覚にとっては大切だという。誰かの役に立っているという感覚であって、それは決して目にみえるものでなくてもいいそうだ。しかも、自分でそう思いさえすればいいのであって、他者からの具体的な言葉はなくてもいいのである。他者がどう思うかは、他者の課題だからである。そして、この貢献感が幸福感という。よって他者からの承認は不要となるのである。自分の力で幸福になることが出来るというのが結論で、それは誰にでも出来るというのだ。なんと、励まされる本なんでしょう。