本読み

本の感想や書評、本の案内ブログ、かつ自身の読書記録です。1980年生まれ/男

『将棋の子』

 

将棋の子 (講談社文庫)

将棋の子 (講談社文庫)

 

本書はプロの将棋棋士になれなかった人たちの物語である。その中心となるのは、成田英二である。本書は、彼の評伝と言っていいかもしれない。あるいは、彼が奨励界を去ったあとに何が起こったのというミステリーとしても読める。

本書は、構成が巧みだ。著者の視点から主観的に成田が語られることもあるし、ドキュメンタリー風に客観的に成田を描く箇所もある。私小説とドキュメンタリーの融合である。そして、その合間に挫折した奨励会員がどうなったのかという挿話が自然にはさまれる。

成田と著者の関係の始まりは小学時代にまで遡る。小学時代に二人は同じ将棋道場にいたのである。そのころの成田の姿は微笑ましい。また、将棋連盟で二人が再会した時の成田も微笑ましい。成田は自分のことを一貫して「こっち」という方言を使うのだ。この「こっち」という言葉のせいか、どこか憎めないところが成田にはある。そして、成田と母親との関係も微笑ましい。親子愛のシーンは感動的である。

けれども、その成田が奨励会で成績を上げられるなくなるころから笑えなくなってくる。自分のフォームに固執する様は意固地な老人を思い出させる。そして、退会とそれに続く不幸。ここまででも十分ドラマなのだが、その後もすごい。それでも壮快だったのは、成田が最後の最後まで将棋の子だったという事実だ。

このように本書は、友情だの、親子愛だの、挫折だの、人との別れだの、ミステリーだのと、あらゆるエッセンスが詰まっている力作である。

著者の本を読むのはこれで3冊目。どれも素晴らしいので、ブログにも書いてきた。著者が経験した出来事はどれもすごくて、題材にも恵まれていると思うけれど、それでも著者の力によるところが大きい。また将棋は強くなさそうだと以前書いたが、本書を読む限り、昔は相当強かったようだ。それがあったからこそ、将棋連盟にも就職した。著者もかつては、将棋の子だったのだ。