読書記録(書評・感想)ブログ

本の感想や書評、粗筋、引用などの読書記録。1980年生まれ。

『きけ わだつみのこえ』

 

きけ わだつみのこえ―日本戦没学生の手記 (岩波文庫)

きけ わだつみのこえ―日本戦没学生の手記 (岩波文庫)

 

本書は満州事変からの15年戦争において戦死した学生の手記や手紙をまとめたもの。書いた直後に亡くなった人の手紙を読むと切なくなる。自分の死期を自分で知っていたことがなおさら切なくさせる。

戦争に対する嫌悪感が強いのが印象的。自分の死を感じているだけに、戦争なんて馬鹿げていると思っている。もう嫌だという気持ちでいっぱいだったようだ。

軍に対する批判も多い。多くが、軍隊の恐ろしさに嫌気をさしている。本書で書かれている手紙にはトイレでこっそりと隠れて書いているものもある。見つかったら殺されるなどと言いつつ、必死で手紙を書いている。

どの手紙や手記も知的である。哲学者の名前が出てきたり、難しい哲学用語が出てきたり、死についての考察はするどく、文章は格調高い。どうして皆こんなにもすごいのだと思っていたのだが、あとがきを読んでみると分かった。つまり、こういう文章を残せたのはほんの一部に過ぎないのだ。自分の気持ちを言葉に出来る人が文字を残したのだ。書くことで自分の気持ちに整理をつけた人がいた一方で、書くこともなく曖昧な気持ちのままだった人もいた。

だからと言って、書くことが全てではない。ある学徒は次のように書き残している。

いろいろ細かく書けば限りはないが、記憶はそれぞれの人の心にそれぞれに留められるべきものであり、紙に記され得る以上の尊さがそこには存するのである。無限の思いを有限の紙上に尽くさんとする愚を敢えてすまい。 

自分の思いを正確に表現することは不可能といった、谷崎潤一郎を思い出した。