読書記録

本の感想や書評、粗筋、引用などの読書記録。1980年生まれ。

『塀の中の運動会』

 

塀の中の運動会

塀の中の運動会

 

 

本書は、刑務所を舞台にした小説である。その刑務所はLB級刑務所と言い、殺人犯などの重犯罪が服役する刑務所である。著者は実際に2件の殺人を犯している無期懲役囚の美達大和。ペンネームである。

実際に服役しているだけに、この小説にはリアリティがあると思う。刑務所内で目撃したものや、刑務所内で聞いた話が多分に詰め込まれている感があるのだ。

本書は覚せい剤の初犯という比較的軽い罪で不運にもこのLB級刑務所に入ることになった36歳の妻子ある光岡という男が主人公である。作業の様子や刑務所内での生活、囚人とのやりとりが描写される。LB級刑務所というところがどんな場所であるのかが自分でわざわざ入らなくとも、想像できるようになる。刑務所の中での立場の弱い人物が虐められる姿には胸がつまった。しかし、その人物がそれでもここの居心地は悪くないと言う姿には、さらに胸がつまる。

そんな刑務所でも運動会は開かれる。光岡の工場もチームとして参加するのだが、光岡の工場は、例年振るわない結果となっている。当然、工場のメンバーのモチベーションも低い。しかし、この工場に別の工場から一人の男が移ってくると、光岡の工場の雰囲気はガラリと変わるのである。男の名は桐生。この男の登場以後、この小説自体の雰囲気も変わったように感じた。

この桐生の人生感が描写されるシーンが印象的である。桐生の信念に魅了されてしまうのだ。

「・・・。シャバも大事だけど自分の気持ちや信念はもっと大事だろ」

「考えたことないな。サボるって自分を弱くすることだろ」

「休む、サボる、これは罪悪だし自分への背信行為だ。その能力があるかもしれないのに十分使わないなんて自分を裏切っていることだろう」

「望んだことを必ずこなすこと。他人が無理だと思うレベルをこなすこと、それしか頭にない。負けてもベストのトレーニングで負けたら仕方ないだろ」

これ以外にもこの桐生の信念の告白が随所に散りばめられていて、凄い男がいるものだと感心してしまう。この桐生のきびきびとした動作やストイックに生きる姿勢を見て、小説だからと片づけることはできない。この桐生は恐らく著者自身をオーバーラップさせているのである。