読書記録

本の感想や書評、粗筋、引用などの読書記録。1980年生まれ。

『サリン事件死刑囚 中川智正との対話』

 

サリン事件死刑囚 中川智正との対話

サリン事件死刑囚 中川智正との対話

 

 

著者は、毒性学や生物化学兵器化学兵器の専門家である。その専門性ゆえに、オウム真理教の事件に関し日本側から強力要請を受け、それに応じてきた。奇跡的にも中川知正元死刑囚との面会も許され、計15回の面会が行われた。それがあったからこそ、本書はこうして存在する。理由は不明だが著者は日本語も流暢である。本書も恐らく著者自らがが書いていて、読みやすい文章となっている。

著者の面会の目的は、オウムの化学・生物化学兵器プログラムを聞き、理解することである。中川自身も事件を語ることで同じ過ちを犯さないようにして欲しいという思いがあったようだ。なので、その趣旨に反する中川の死刑を前にした心境を聞くことや、彼が嫌がるような質問は極力さけてきたという。

しかしそれでも本書を読めば、中川の心境や様子をそれなりに知ることができる。著者が会うたびに中川は太っていったという。また本書で描写されている中川は実に爽やかである。著者はある種の好感さえ持っている。

オウムが起こしたそれぞれの事件の描写もあり、オウムの悪行を知ることができる。サリン事件は大きく取り上げられたけれど、他にもいろいろと悪さをしているのだ。恐ろしいのは、より被害が拡大していた可能性があることである。

意外だったのは、オウムの幹部たちの人間臭さである。サリンVXガスを大量に作り出そうしているシーンでは、上司が気に入らない、あいつとは働きたくない、などといった普通の会社にもありそうなもめごとがあった。人間関係の苦労はどんな組織にもあるのだなと苦笑してしまう。また、中川が拘置所内で論文を書いたシーンでは彼の虚栄心が垣間見えた。

こんなふつうの人たちが、麻原にマインドコントロールされ、テロを起こした。麻原は人の心の隙をつくのが上手かったのだと思う。この麻原しか知らないことがまだあると中川は述べており、その教祖なき今、真相は不明のままになることが確定した。著者は中川と文通も行っていた。死刑執行が終われば、出版してもいいとの許可を得ていて、今回の出版に至った。