読書記録

本の感想や書評、粗筋、引用などの読書記録。1980年生まれ。

『野垂れ死に』

 

野垂れ死に (新潮新書)

野垂れ死に (新潮新書)

 

将棋についてはある程度知っているけれど、お隣の囲碁のことはほとんど何も知らない。ルールを知らないし、名前を知っている囲碁棋士も井上裕太くらいである。当然、本書の著者である故藤沢秀行のことも知らなかった。本書は、その藤沢秀行が凄まじい半生を反省した本だ。囲碁に関心があったというよりも、彼の破天荒な生き方に興味があったのだ。

時々生まれた時代を間違えたのではないかという人物がいるが、この藤沢もその一人だ。常人の道徳は、超人には決して当てはまらないことを確認した。藤沢自身も恐竜時代に生まれたかったと述べている。さらには、

ギリギリ戦国時代でもよかった。秀吉とか家康なんてのには、多分負けなかった。特に家康なんてのは、一発でやっつけてやる。

と、逞しい。

棋士になりたての藤沢は普通に生活をしていたようだ。しかし、囲碁へのストイックさへの反発なのかどうかは不明だけれど、藤沢は「飲む、打つ、買う」の全てに手を出すようになる。競馬や競輪にのめり込み、億単位の借金を抱え、自宅は奪われることになる。後に、再び家を建てることになるが、その自宅には3年も帰らなかったという。

外で作った二人の女に生ませた子供を藤沢は認知し、藤沢の女房はその認知した子供を可愛がったという。藤沢も認めるように藤沢の女房もまた豪傑なのだ。ちなみに、この二人の両親もそれぞれ豪傑なのだから、血は争えないものだ。

酒豪の藤沢は3度も癌になったものの、その全てで生還を果たしている。死ぬ気で生きているのに、なかなか死なないのだと豪語する。

それでも囲碁に関する取り組みは真摯だ。常に頭の中では囲碁のことを考えていたといい、引退後も囲碁からは離れなかったようだ。日本の囲碁の衰退を嘆いているのは、囲碁に対する執念を感じた。何よりも驚いたのは、66才でタイトルを取得していたこと。これこそが、最も強靭、というか狂人ぶりを示している気がする。

こういう常軌を逸した生き方は、凡人の小さな悩みを吹き飛ばしてくれる効果があるように思う。