読書記録

本の感想や書評、粗筋、引用などの読書記録。1980年生まれ。

『日の名残り』に『ダウントン・アビー』

 

日の名残り (ハヤカワepi文庫)

日の名残り (ハヤカワepi文庫)

 

カズオ・イシグロがノーベル賞を受賞した直後、そして個人的にはイギリスの人気ドラマ「ダウントン・アビー」を見終えた直後というタイミングで本書を読み始めた。世界一の大富豪でアマゾンの創業者、ジェフ・ベゾスも本書を愛読書にしているとか。

本書は執事であるスティーブンスが主人であるファラディから暇をもらい、かつての同僚で女中頭であるミス・ケントンを尋ねる旅行記がメインストーリーである。旅で起こったことを描写しつつ、屋敷に仕える執事たるものはどういったものなのかをスティーブンス自身の体験を中心に回想される。

執事であることの誇り、英国紳士であることの誇りが丁寧な言葉で語られる。自分が名執事であることを伝えようとしても、それをおおっぴらに言っては紳士ではなくなるという配慮からか、とても謙虚に自分の偉大さを伝えていく。僕ってこんなに凄いんですけれど、実際はそれほどでもないんですという感じである。両立しないはずなのに、両立しているのが凄い。

そして書名で匂わすように過去への憧れがある。かつての名執事も仕事上でミスをするようになっていて、こんなはずではないという思いに苦しんでいる。しかし、同じく懐古主義に陥っていると思っていたミス・ケントンに再開してみると彼女は前向きで、斜陽というのは太陽の中で最も美しいものだということにスティーブンスは思いを馳せていく。若いとき、昔だけに、趣があるのではないのだと。「花は盛りに、月は隈なきをのみ見るものかは」である。伝統を重んじるイギリス人にとってのアンチテーゼであろうか。

さらには、自分にはユーモアのセンスが欠けているのではという結論になるのは、イギリス風と言えばそうであるけど、あまりの堅物執事とのギャップがおかしい。自分はジョークの練習をしてはいたけど、熱意が足りていなかったことを反省するなんて素敵すぎる。これこそ、ジョークではないのかと疑ってしまった。

本書の最後の最後を引用

明日ダーリントン・ホールに帰り着きましたら、私は決意を新たにしてジョークの練習に取り組んでみることにいたしましょう。ファラディ様は、まだ一週間はもどられません。まだ多少の練習時間がございます。お帰りになったファラディ様を、私は立派なジョークでびっくりさせて差し上げることができるやもしれません。

持つべきものはユーモアのセンス。イギリス人が大切にするユーモアのセンスまでは否定しないのである。

 

ダウントン・アビー シーズン1 バリューパック [DVD]

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本書の執事スティーブンスが、ダウントン・アビーのカーソンとダブって見えて仕方がなかった。カーソンもまた名執事であったけど、最後には執事としては働けなくなるのだ。ドラマ自体も面白い。もう一度見たいドラマリストに加えてある。