読書記録(書評・感想)ブログ

本の感想や書評、粗筋、引用を自由に書く読書記録。1980年生まれ。

「笑うセールスマン」的:『夢を売る男』

 

夢を売る男 (幻冬舎文庫)

夢を売る男 (幻冬舎文庫)

 

本小説は、人間の欲望とそれを食い物にする人達を描くと同時に、出版界のからくりやシステム、その問題点を描き出しています。出版界の様子や物を書く人の心情が文学に反映されているのです。

本書の主人公の「夢を売る男」は、どこか「笑うセールスマン」を彷彿とさせます。男は、出版社の編集長です。世の中には本を出したい人がごまんといて、その人たちの隙をついたビジネスを編集長は展開していきます。こうした人たちは皆自分の文章に自信を持っているので、編集長からの絶賛を疑うことがありません。この編集長が太鼓を叩く姿と自分の文才に勘違いをしている人たちの痛々しい姿の描写が滑稽でした。

「笑うセールスマン」では夢をかなえた人が最後には凄まじい不幸に陥りますが、本書で「夢を叶えた人」が失うのはお金だけです。それも編集長に言わせれば、夢を叶えるための必要経費だそうです。

しかし、もし自分が同じように本を出しませんかと提案を受けたら、単純な私はまんまと罠にはまる気がします。「謹んでお受けいたします」的な、大関に昇進したかのようなコメントさえしてしまうかもしれません。現実にはこんな単純な人ばかりではないはずですが、人は意外と単純で、自分だけは例外だと思っているから笑えません。

悪いはずのこの出版社ですが、さらに悪い出版社が出てきた結果、相対的に良い出版社となり、正義の側に立つのですから、真理とは一体何なのでしょう。

本書は物を書く人に対して厳しい批判となっていて、こうしてブログを書く私をも傷つけにきました。しかも、この批判は、著者自身(百田尚樹)にもしっかりと向けられていて素晴らしい自虐になっています。出版すること自体は大したことではなく、作家だってそんな大層なものではないと描かれていますが、それでも良い本は残って欲しいというメッセージが最後にキラリと輝いています。