読書記録(書評・感想)ブログ

本の感想や書評、粗筋、引用を自由に書く読書記録。1980年生まれ。

『われ敗れたり』

 

われ敗れたり - コンピュータ棋戦のすべてを語る (中公文庫)

われ敗れたり - コンピュータ棋戦のすべてを語る (中公文庫)

 

読もう読もうと思っていたら、ついに文庫化されてしまった。本書は、第一回将棋電王戦に「ボンクラーズ」というコンピュータソフトに挑んだ、故米長邦雄がその対戦の模様と対局前後の期間を自ら振り返ったもの。この挑戦を機に人間とソフトの闘いはさらに発展し、ソフトが飛躍的に成長したのも周知の通りだ。

面白かったのは、本書でしか知ることのできないエピソードの数々である。以前に渡辺明竜王と「ボナンザ」というコンピュータソフトが対戦するという企画があったのだが、米長はその渡辺に依頼する前に佐藤康光に依頼をしていたのだ。その時、佐藤康光は断固として断るけれど、その描写があまりにも可笑しい。将棋界は魅力的な人物で溢れている。

渡辺竜王もその一人だ。竜王は、藤井聡太の実力関して何かのインタビューで「今はどの程度の天才なのかを見極めている段階」というようなコメントをしていた。この発言の真意は不明だが、「棋士は皆将棋に関しては天才で、違うのはその程度だけである」と言っているように私には聞こえた。そんな彼らが魅力的でないわけがないのだ。この竜王、将棋の実力もさることながら、将棋の解説の切れ味が鋭いのが魅力である。将棋の実力と解説の分かり易さは、それなりに相関関係があるように思う。

著者の米長の魅力は、本書においても散見されるあのウィットに富んだ発言である。瞬時にあれほど気の利いた発言が出来るなんて素敵である。

他にも自宅にプロ棋士等を招いて「ボンクラーズ」と対戦させた話や、奥さんからこの闘いには勝てないと予言された話なども興味深い。対局に集中するためにマスコミに対して取材のルールを決めたにも拘らず、ルールを破って写真を撮影してしまう人がいた話には呆れてしまう。それが対局にも影響をもたらしたというのだから、尚更である。あの日、米長はルールを破られ、勝負にも敗れたのだ。

文庫本の最後に、米長の弟子で先日王座のタイトルを獲得した中村太地が本書の解説を書いている。