読書記録(書評・感想)ブログ

本の感想や書評、粗筋、引用を自由に書く読書記録。1980年生まれ。

英語の大家、齋藤秀三郎の英文法書:『実用英文典』

 

実用英文典

実用英文典

 

本書は英語の大家、齋藤秀三郎の英語の文法書である。彼は仙台藩士の長男として1866年に生まれ、5歳から英語を学び始めたという。およそ30年後の日清戦争から日露戦争の時代にかけては日本での英語熱が凄まじかった時代である。1900年は夏目漱石がイギリスに留学した年であり、同世代の新渡戸稲造や岡倉天心は英語で日本を伝える本を書いた。

齋藤はその人生を英語に捧げた。図書館の英語の本を読み尽くし、大英百科辞典を2度読んだというエピソードがある。その気性はかなり激しかったようだ。外国人を叱りつけたり、喧嘩別れでの辞職も何度かあったという。英語力もその性格も尋常ではなかったのだ。本書で引用されていた齋藤の評伝には「齋藤秀三郎先生のような特別なエネルギーを持っていた超人は普通一般人の道徳を以て律してはいけません」とある。

齋藤は英語の教科書を200冊以上も書いている。本書はその中でも評価の高い「Practical English Grammer」全4巻を訳したもの。つまり、この英文法書は元々、齋藤が英語で書いたものである。日本人が英語の文法書を英語で書くだけでも生涯の仕事という感じもするが、200冊も出版していたことを考えると、彼にとっては片手間の仕事だったのかもしれない。今日の学校で使用される文法書も元を辿ると本書に行き着くらしい。元祖である。

英語版は絶版になっていてアマゾンでは随分と良い値段で取引されていたが、ありがたいことに翻訳版が出版された。それを知って喜んだものの、値段の7400円には喜べなかった。私ごときが一冊の本に7400円も払っていいものかと思案したけれど、古本の『Practical English Grammar』に比べれば安いのだと自分を励ました。

全部で773ページの本書は品詞毎に文法項目が並んでいる。特徴的なのは、例文が豊富でその難易度が高いこと。頻繁にシェークスピアの例文が出てきて、またその例文が時に含蓄を含んでいて勉強になるのだが、ほとんどの例文に日本語訳がついていないのはネックになりうる。

本書の白眉は前置詞の説明にある。およそ全体の3分の1を前置詞の説明に費やしている。11章で前置詞のそれぞれの意味を詳細に説明した後に、13章で再び前置詞を意味ごとに分類し、どの前置詞を使えばいいのかを体系的に説明する。辞書で「for」を引くと20個近い意味があるが、本書でもそれくらい細かく分類されていて前置詞の辞書といった感じである。

いずれにせよ、これほど詳しい前置詞研究は、齋藤以後日本ではもちろんのこと海外でもほとんど見られず、前置詞研究の貴重な成果としていまでも輝きを失っていない。

全部に目を通すのには時間がかかったが、通常の文法書では見かけない説明もあり、それなりに読んだ甲斐はあった。

齋藤秀三郎も登場する2冊の新書を紹介。 

英語達人列伝―あっぱれ、日本人の英語 (中公新書)

英語達人列伝―あっぱれ、日本人の英語 (中公新書)

 

こちらは、齋藤秀三郎を含む10人の英語の達人を紹介した本。レビューも書いた。

bookimpressions.hatenablog.com

  

英語達人塾 極めるための独習法指南 (中公新書)

英語達人塾 極めるための独習法指南 (中公新書)

 

 こちらは英語の達人になる方法論を紹介している。英語の達人の例を引き合いに出し、多読、音読、暗唱、辞書を引くことの重要性を説明し、実際にどのように行えばいいのかを助言する本書。その中で『Practical English Grammar』が凄い本だと紹介されていた。コロンやセミコロンの使い方の説明があるのもいい。