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本読みのはしくれ

本の感想や書評、本の案内ブログです。このブログは1980年生まれの男によって書かれています(受動態)。

『いつかの夏 名古屋闇サイト殺人事件』

ノンフィクション

 

いつかの夏 名古屋闇サイト殺人事件

いつかの夏 名古屋闇サイト殺人事件

 

本書は2007年に名古屋で起きた闇サイト殺人事件を描く大崎善生によるノンフィクションである。著者自身、これが5冊目のノンフィクションであるが、本ブログではその全て紹介してきた。そのどれもが感動的であり一気にファンになってしまったのだ。もちろん今回もその期待を裏切らない。

本書は事件の状況を描く部分と彼女の評伝となる部分に別れ進んでいく。事件の詳細を知り、彼女の生い立ちを知ると、なんと痛ましい事件かと打ちのめされる。その殺害シーンはあまりにも残酷である。

殺害された磯貝理恵は、1歳の時に父を病気で失くし母親と祖母の手によって育てられた。当然、母との絆は強い。時にはぶつかりながらも、二人の絆はどんどん強くなっていく。挫折した大学時代に彼女を救ったのはバンド、GLAYであった。本書の書名もそのGLAYの曲「いつかの夏に耳をすませば」から来ている。

事件が起きた当時、彼女は31歳で、交際し始めたばかりの数学博士を目指す26歳の恋人がいた。愛する母には、家を買ってあげようと貯金をしていた。いろいろあった彼女も幸せの絶頂であった。そんな時に悲劇は起きた。

闇サイトで知り合ったばかりの3人による強盗殺人である。この内二人は過去にも人を殺していて、人を殺すことに抵抗がないのかもしれない。杜撰な計画を実行し、彼女は車に拉致される。計画は杜撰だが、彼女が金を持っているという予想だけはあたっていた。キャッシュカードには、彼女が母に家を買うためにと貯めた800万円があったのである。犯人らは番号を聞き出そうとするも彼女は必死に抵抗。それでも最後に番号を伝えるが、それは数学者の卵の恋人ならば解読するであろうというメッセージ付きの嘘の番号「2960」。

その後の残酷な殺害シーンは狂気の沙汰。絶句。

事件の明くる日、犯人達は、現金を引き出しにATMに向かうも当然お金は引き出せない。すると、あっさりと諦め、今夜また別の人をやるしかないと再度の犯行を約束して解散する。なんでそうなっちゃうの?

こんな行き当たりばったりの殺害による彼女の無念さはいかようであっただろう。もちろん彼女の無念さは想像するしかないが、彼女の母の無念さは本書で描かれている。その母が書いた「空」と題した詩の一部を引用。

何時でも何処でも空を見上げると、あなたに会える気がします。

何時もあなたが見ていれくれる気がするから。

利恵ちゃん、お母さんの声が届いていますか。

「もう一度あなたに会いたい!もう一度あなたの声が聞きたい!もう一度あなたの暖かい頬に触れたい!」

再びあなたに会える日を楽しみに、しばらくこちらにとどまります。

再びあなたに会える日を楽しみに、空を見上げて歩きます。

この母と被害者への同情が死刑を求める33万もの署名を集めた。日本の司法にがっかりさせられる描写もあったが、この33万という数字が日本も捨てたものではないなと思わせてくれた。