本読み

本の感想や書評、本の案内ブログ、かつ自身の読書記録です。1980年生まれ/男

色褪せない:『それから』

 

それから・門 (文春文庫)

それから・門 (文春文庫)

 

漱石三部作の第二部にあたる『それから』。本書の主人公代助は30歳の高等遊民である。学校にも行かず、勉強もせず、働きもせず、一日中家でゴロゴロしている。羨ましいではないか。生活は、親からの援助で成り立っている。今で言う「働いたら負け」を実践しているのだ。実践的なものなどは否定し、役に立たないものこそ尊いなどと屁理屈をこねる。今の世に溢れるビジネス書や自己啓発本なんて噴飯ものであっただろう。

日本が近代化する中での苦悩を代助は感じる。個人を大事にすべきものが近代であるが、家族の名誉を考えなくてはいけないことに代助は悩む。家族から結婚相手を紹介されそのまま結婚するのがこの時代のスタンダードであっただろうが、代助はそれを拒む。好きな人がいたからである。しかも、その相手は本来好きになってはいけない女性なのだ。彼女は親友である平岡の奥さんなのである。しかも、二人を斡旋したのは彼自身なのだから、無理筋にも程がある。

しかし、この代助という男、自然の要求には勝てないとか言い出して、思いを伝えてしまうのだ。当然家族からも親友からも縁を切られる。大切な仕送りも打ち切り。そして、タウンワークもハローワークもない時代に仕事を慌てて探しに行くところで物語は終わる。それからどうなるのという感じだ。

明治の小説なのだが、今読んでも色褪せない。当時も高等遊民という言葉が出来る程に働かない人はいたのだろうが、これは今でいうニートであろう。働きすぎることへの警告もあったが、これは今の時代にこそ当てはまるものだ。そして、物欲を追求することによる道徳的退廃もそうだ。ただ、家族の名誉を重んじる考えは減っているし、不倫も日常茶飯事になっている。道徳的退廃は一層進んでいる。

『明暗』や『道草』を読んだ時にも感じたけど、漱石の小説の会話は緊迫感がある。もちろんシチュエーションがそうさせているのだが、この小説においても代助と平岡の会話、代助と三千代との会話、代助と父親との会話、どれも緊張感があった。 

他の漱石の小説も再読したくなった。