読書記録(書評・感想)ブログ

本の感想や書評、粗筋、引用を自由に書く読書記録。1980年生まれ。

『裁かれた命』

 

裁かれた命 死刑囚から届いた手紙 (講談社文庫)

裁かれた命 死刑囚から届いた手紙 (講談社文庫)

 

本書はある強盗殺人事件を犯した青年が死刑となり、それが果たして本当に死刑に値するものだったのかに追ったノンフィクションである。新潮ドキュメント受賞作であり、素晴らしかった。

事件は40年以上も前のことであるが、彼が残した手紙や裁判記録から当時の事件そのものや裁判の経緯、青年の心理を見事に蘇らせている。何度も彼の手紙が引用されるが、主な手紙の宛先は二つある。一つは一審の捜査検事に当てたもので、もう一つは2審以降の弁護を担当した弁護士に当てたものだ。この二人に対する青年の純粋すぎる程の信頼が、どうしてこんな青年が罪を犯してしまったのかという気持ちにさせる。それほどに彼の手紙は、心を打つものであった。

人生に対して投げやりになったことでの犯行。その後の裁判においてもあっさりと罪を認めたことで死刑判決が下され、処刑もそれほどの期間を置くことなく行われてしまう。その過程で現状の取り調べや裁判の問題点、死刑の是非、などの問題点が提起され、この事件は正当な裁きを受けたのか、改善すべきところがあるのではないかと問いかけてくる。

青年一家の生い立ちは複雑で、これが事件に多大な影響を与えたようだ。青年の母親も若くから家族に翻弄されながらも、苦労をして青年を育てた。母親と青年の関係は決していいものではなかったが、事件を機にその絆が強まっていくのは皮肉である。事件を犯した息子を必死に助けようとする母親にその強さを見、またその母親のためにも生きようとする青年に母への強い思いを感じた。

青年には行方不明になった弟がいるのだが、彼は生きていて、事件当時の悲劇的なエピソードが語られる。当時、彼は新聞配達をしていて、加害者として兄の写真が一面に載る新聞を涙ながらに配ったという。

事件を起こす前と後の青年の別人ぶりに驚く。弱さゆえに事件を起こした者が、後にこれほど強くなれるものなのか。こうした人間の可塑性を見ると、更生の余地はなかったのかと考えてしまう。