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本読み

本の感想や書評、本の案内ブログ、かつ自身の読書記録です。1980年生まれ/男

棋士の存在意義を問う:『不屈の棋士』

 

不屈の棋士 (講談社現代新書)

不屈の棋士 (講談社現代新書)

 

本書は将棋観戦記者である著者が将棋棋士へのインタビューをまとめたもの。インタビューされているのは11人の棋士で、羽生、渡辺を筆頭に有名棋士が並ぶ。インタビューの内容の中心は、将棋ソフトとそれに向き合う将棋界についてである。どの棋士に対しても、「コンピュータと人間ではどちらが将棋が強いのか」や「将棋棋士の存在意義は」などという直球の質問をぶつけていく。

面白かったのは千田翔太5段。彼は将棋ソフトに精通していて、他の棋士等からも彼の名前はたびたび言及されていた。他の棋士等がある程度将棋ソフトに距離をおくなか、彼だけはどっぷりと将棋ソフトを使用している。最強の将棋ソフト「ポナンザ」は100万円でも欲しいという。

さらには、そのソフトを作る側の人達の真剣さを讃え、一部の棋士達はそれほどの真剣さが足りないとまで述べる。若いのに凄いなあ。

続いて面白かったのが、同門の山崎隆之8段。

常日頃からユニークな言い回しをする山崎8段、このインタビューでもいつものままである。時に自虐的になりながらも、彼はソフトに対しては否定的な立ち場であった。電王戦に出場する棋士に対してだけソフトが貸し出されるのは不公平だと言う。将棋界はフェアでありそこが良いところだと信じる彼は、ソフトで強くなることに強い違和感を感じていて、ソフト使用に対して「ドーピング」という言葉さえも飛び出す。その彼が第1期叡王戦で優勝するのは何の因果だろう。

相手の手を見ればソフトを使って研究をしているのかどうかが分かるというのだから、棋士は凄い。第3回の天下一武闘会で悟空の放った衝撃波を見たピッコロが、あれは魔族に近い技だとピンっと感じたように、プロの棋士もその手を見れば分かるのである。山崎8段は、ソフトのような序盤が増えたと嘆いている。行方8段は、羽生3冠が詰み検索以外では、将棋ソフトを使っていないと証言していた。

この行方8段のインタビューも面白い。本来の黒船は渡辺明だったのに、後からもっと凄い黒船がやってきたとソフトのことを形容していた。

ソフトが棋士より強くなっても将棋界は衰えないと思う。それは本書にも出てくるように、自動車があってもマラソンの魅力は衰えないのと一緒だ。そして、棋士の存在意義はどうかというと、行方8段の言葉がよかったので引用。

終盤で1分将棋というギリギリの状態で、わけのわからない局面を肩で息をしながら戦っている姿というのは、絶対に何かを感じるはず。そういうものを見せていきたいですし、そこにしか価値はない、くらいに思っています。

ファンが見たいのもこの姿である。