本読み

本の感想や書評、本の案内ブログ、かつ自身の読書記録です。1980年生まれ/男

『泣き虫しょったんの奇跡』

 

泣き虫しょったんの奇跡 完全版<サラリーマンから将棋のプロへ> (講談社文庫)

泣き虫しょったんの奇跡 完全版<サラリーマンから将棋のプロへ> (講談社文庫)

 

著者の瀬川昌司は通常とは異なる入り口からプロになった将棋棋士である。プロになったのは2005年のことである。話題にもなったので、将棋ファンでなくともニュースで見たことがあるかもしれない。

本書では、瀬川自らが、自分の歩んできた道を書き記している。素晴らしい物語に仕上がっている。感動も笑いもたくさん詰まっている。将棋ファンでなくとも楽しめる。将棋ファンなら、なおさら楽しめる。ちなみに僕は後者だ。

小学5年生のときに瀬川に転機が訪れる。それまでの瀬川はクラスでもめだつことのない存在。しかし、そこに救世主が現れる。担任の女の先生である。彼女の賞賛をきっかけに瀬川は自信を持ち始める。この先生が実に魅力的であり、また瀬川の人生に大きく影響を与えている。「だからね、セガショー。君はそのままでいいの。いまのままで十分、だいじょうぶだよ」なんて言ってくれる先生なのだ。

そして、もう一人瀬川に大きく影響を与えているのが、同級生で近所に住むライバルの渡辺。小学生の頃から二人はライバルであり、時には一緒にプロを目指す。その過程でいくつものドラマがあり、時にはホロリとさせられる。スポーツのライバル関係はしばしばドラマになるが、将棋のそれも立派なドラマになっている。

そのライバルは途中でプロになることをあきらめるのだが、瀬川は奨励会へと進んでいく。この奨励会で、もがく姿も見所である。時には順調に昇段していくが、最後には26歳の年齢制限の壁に阻まれプロへの道は閉ざされる。プロへの道を閉ざされた棋士の無念さはすさまじい。そして、その悲劇は瀬川にも訪れる。瀬川は、その日に「これで本当に死んだ」と思ったと言う。

本来ならばこの奨励会を退会するところが最大のドラマになるはずだが、本書においては一部に過ぎない。本書の凄さは幾度もクライマックスが訪れるところにある。見所満載の本である。